ブラックミュージック界の巨星ディアンジェロの早すぎる死に近田春夫と適菜収はなにを感じたのか!?【近田春夫×適菜収】
【近田春夫×適菜収】連載「言葉とハサミは使いよう」第10回
■結果がどうなるかは神のみぞ知る
適菜:350年くらい一瞬ですぎるのだから、「待つ」とか「一度引く」というのも、大事かなと最近は思っています。
近田:場所は移動できるけど、「今」から、次の瞬間に行くことを拒否することはできない。この時間の流れから外れることはできないっていうのは全宇宙で共通なの? 例えば100万光年の彼方の土地でも、地球上と同じように、「今」は「今」なのかな?
適菜:難しい問題ですね。言語学や哲学の問題も絡んできますし。そもそも、時間は前方に進むものなのかもわからないし。
近田:うん。
適菜:「時間」で思い出したのですが、昔、「虚業家」の康芳夫に「適菜君、君はなんでハイデガーをやらないんだ?」と言われた。私はハイデガーなんて読んでもいないのに。康さんは、ほとんどすべての人を「君」付けで呼んでいましたが、「ハイデガー君」とはいわなかった。さすがに、ハイデガーは先輩だと思っていたみたいです。近田さんは、康さんとはご面識がありますか?
近田:昔、ユーヤさん(内田裕也)のバンドにいた頃、志賀高原のホテルのクリスマスパーティーの営業に行った時、普通に客で女と来ていて、どう考えてもドラッグ目一杯決めて女と踊ってたシーンが忘れられないね。
適菜:いつ頃の話ですか?
近田:70年代の初頭〜75年の間ぐらいかなぁ?
適菜:トルーマン・カポーティ・ロックンロール・バンドですか?
近田:いや、その頃は1815ロックンロールバンドだね。
適菜:どんなパーティーだったんですか?
近田:竹田和夫のクリエィションに俺がキーボードで参加っていう。
適菜:普通のクリスマスパーティーですか?
近田:普通のもので、パーティーバンドとして呼ばれたって感じ。
適菜:私は20代の後半頃、新宿で飲むことが多かったのですが、風花とかburaとかで康芳夫を見かけることが多かったです。ピンクのスーツを着ていてどう見てもカタギではない。「適菜君、この世は虚実皮膜だよ」とよく言っていました。昨年の暮れ、亡くなったみたいですが。
近田:すごい人と知り合いだったんだね!
適菜:最初、福田和也が康芳夫について書いているのをどこかで読んで、そのあと、ピンク色の人が新宿を歩いていたので、「あっ、康芳夫だ」と思ったのをなんとなく覚えています。正確にはいつだったか忘れましたが。
近田:あ、書いてたね!
適菜:康さんは長生きでしたが、私の知り合いは、50代後半で次々と死にました。時間も死も結局よくわかりません。
近田:結果がどうなるかは神のみぞ知るなんだったら、とりあえず自分の信じるようにやるだよね。
文:近田春夫×適菜収